起業の技法

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村上春樹さん「風の歌を聴け」完成秘話

土曜の朝、商工会議所の創業塾に向かう途中で見上げた空です。台風7号接近中。

見上げた時の私の心を支配していたのは、積み木崩しをした後の心境です。といっても、「いい積み木崩し」ですが。

 

「いい積み木崩し」。クラッシュ&ビルドといいますが、クラッシュした直後は、やはり堪えます。今まで準備してきて、やっと始める直前で、とても重要な事実を知る。そのまま進めてはいけない位の事実。そのまま進めていれば、これから先に重大な損害を被ることになるであろう事実を知ったのでした。

 

その事実を知ったのは、本当に偶然でした。YouTubeの動画でこれから始める作業の解説動画をみていて、その動画の中で紹介された電子書籍をダウンロードし、ささっと読み進めたら、本当にさらりと書いてあった事柄に、自分にとってはかなり価値ある情報がありました。もしもYouTubeでその動画をみずに、また電子書籍をダウンロードせずに突き進んでいたとしたら・・・。背筋が凍るようなことが起きたでしょう。

その意味で、私はついていました。一旦作業を止めて全体のプランを練り直しすることにしました。が、クラッシュの余波で、自分の気持ちも一緒にクラッシュされているのがわかりました。特にこの空を見上げた時に。

一日の創業塾の学びを終えて、今日、日曜日は休息をとることにしました。

そんな折に、依然読んだ村上春樹さんの自伝的エッセイ『職業としての小説家』の中に在る1エピソードを読み返しました。

群像新人賞をとった最初の小説『風の歌を聴け』の執筆秘話です。この小説によって職業作家としての道が村上春樹さんに開けました。そこにはepiphanyエピファニー)「本質の突然の顕現」があったと村上さんは語っているのですが、1978年4月の良く晴れた日の午後に神宮球場でヤクルト対広島カープの対戦を観に行き、ヒルトンというヤクルトの無名に近いバッターが二塁打を打ちました。その時「そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない」とふと村上さんは思ったのだそうです。ハルキストには有名な話です。もう一度読み返したいと思ったのは、彼がその後どのようにして『風の歌を聴け』を書きあげたかを確認したかったからです。

 

❶試合が終わって、新宿の紀伊國屋に行って、原稿用紙とセーラーの万年筆を買った。

 

❷お店(飲食店)の仕事を終えてから、台所のテーブルで執筆した。

 

❸半年間かけて、原稿用紙二百枚弱の第一稿を書きあげた。

 

❹そのがっかりした出来栄えに、押し入れにしまってあったオリベッティの英文タイプライターを使って、一章分の英訳をはじめた。

 

❺今度は、それを日本語に翻訳してみた。

 

❻そしてすでに書き上げていた小説を、すべて書き直していった。

 

❼「群像」にその原稿を送った。コピーもとらずに・・・。

 

村上春樹さんは、❺の作業を通じて、彼の文体を自分のものにしていったと述懐しています。

 

このエピソードを読み返して、私は少し自分の小さな出来事を乗り越えるヒントを得たように思いました。

 

これを書いた私は、今日一日だけは休むことにします。